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木村栄昌

冬の時代を笑いで乗切るために<短編物語>読むだけで税や会計の生きた知識が不思議に身に付く

<短編物語>第9話 資金城盛衰記 その6

仮払金を放置してきたツケ

泰平は秀夫の話を聞いて高専の授業内容に感心した。
 高専は「地獄のレポート訓練」が連続し、内容が未熟だと再提出になる。このため自己学習の習慣が嫌でも身に付き、基礎的な論理構成力、文章力が養われる。大学生の多くがまともな日本語が話せない、書けない、読めないレベルから脱出することになる。先生方の質も高く、研究者であるとともに教育者であるとの評価である。

 技術者として自立できるだけでなく教育が人間の基礎を作るのが分かった。
大学が勉強の中身より大企業への就職試験の参加権を得る場になって訓練や勉学の場ではなくなってきているのと大きく違う。 

 最近も秀夫は犬と小米を分け合って食し、野菜売場の見切り時間に買ってきた小松菜を味噌汁に入れて毎日毎日同じ質素な食事をとりながら進路を模索している。
 泰平はそんな秀夫に一層自分の事業を継いでもらいたいとの気持ちが高まるのであった。ただ泰平の認識には会社の資金城が崩壊し奥曲輪に虎の子の資金が残るだけであることの認識は薄い。

 「どうしたら良いのか?」と泰平が頭を抱える日々が多くなった。相談所で耳にした「相続時精算課税制度」は2,500万円まで贈与税はかからないのでこの制度を使えば泰平家具の株式を秀夫に譲ることはたやすいと思っていたが相続税法21条の9で泰平の「直系卑属」でないとこの制度を適用できないことが分かった。甥は傍系であるから、だめなのである。

 このようなことに加え贈与する泰平家具の株式の値段に問題が出た。
会社の株式評価に際して仮払金5億円、これが未精算で貸借対照表の資産の部に上がったままである。が、出したお金は戻ってこない。センムに返せと言ってもない袖は振れない。センム本人には返済という認識もない。

相談所の税理士によれば

・還って来ない金額をそのままにして株式評価することは良くない。
・貸倒処理をすると同族会社なので給与課税の認定がありうる。
・使途秘匿金か認定給与という問題にもつながる。センムは役員であるから、定期給与ではなく臨時の役員給与になり給与課税とともに法人にも課税される。この際、退職してもらって退職給与となる部分は損金算入ができる。議事録など法務的な準備も必須だ。
・利息取ってセンムへの貸付金とする道もある。金銭消費貸借契約が必要なうえ利益相反になるから、会社法上の手順も踏まなければならない

 ・もし貸付金であったなら財産評価基本通達185で会社の持つ資産を評価するに際しその債務者が重大な損失を受けたため回収不能になれば貸付元本から外すことができる旨の規定(評価基通205)がある。が、重大な損失は事実としては、ない。いずれにしろ、仮払金では中味の性格が曖昧なままで問題が残る。

・50万円だけを貸倒にしてセンム個人は一時所得で税金かからない細かい方法もある。いずれにしろ仮払金を貸借対照表上で処理すれば株価は激減する。

 相談した税理士の意見について、色々考えて行くと結局はセンムやその嫁に好き放題させてきた自分の責任であることに気づいた。

泰平の後悔

 仮払金の問題で「なんて阿呆だったんだろう。」気持ちの持って行き場がなかった。そして出てきた取るべき道は

「センムに自宅売却してその代金に加えフェラーリも処分して、代金を会社に入れてもらいましょ。センムには退職金出しても直ちにそのお金を仮払金弁済に充ててもらいましょ。」

「身の回りの金目のものも金プラショップで処分して会社に入れてもらいましょ。」
 段々思いはエスカレートしてゆく。
「家族3人何処へでも行ったらよい。子供は退学や。働け。ひどい目に会わせてやる。家族3人、雨露凌ぐところと3度のごはん食べられたらよいけれど、、、むりかな~」

 「それに孫も困ったもんや。朱に染まれば、、ではないがリッチエスカレーター学院行くうちに目つきも悪くなってきた。友達は年齢偽って水商売のバイトしてるのも多いらしい。エエパパ見つけておカネ貰って高級品を買うらしい。センムの娘はいいパパ捕まえてエステサロンしてお金を作りたいと公言するようになっていた。」

 「あんな奴、ヒドイ目に遇って自分で立ちあがったらよろし。心臓悪いお父さんと乳腺外科に通う母を抱えて道は険しいな。」

泰平は投げやりになりかけていた。

 あの晩のことを思い出した。秀夫から母親の血圧が降下し始めて危篤になったとの連絡が入った。そんな晩、急いで駆け付けたが泰平は妹の死に目に遇えなかった。部屋に入って一目で質素な生活ぶりが見て取れた。秀夫は妹の亡骸の傍で犬の背をなでながら号泣していた。犬も床に伏せたまま秀夫の傍を離れようともしなかった。泰平は葬儀一切を取り仕切った。妹への慚愧の思いがその後、途切れることはない。