Try for you

木村栄昌

冬の時代を笑いで乗切るために<短編物語>読むだけで税や会計の生きた知識が不思議に身に付く

<短編物語>第9話 資金城 盛衰記 その3

資金に色は付いていないが 

資金城主の昔語り・・初めての銀行借入 

 「まだ泰平社長の息子さんが学校行ってる時代であった。初めて設備投資のために銀行借入して受注生産から見込み生産に乗り出した。

 住宅建設が進み、マンションもドンドン郊外に建てられたころで銀行借入の返済も余裕でできた。

ここで社長はカネの色に気づかなかったけれど、私には見えた。

どういうことかというと

 材料仕入れから工程に投入され仕掛品、半製品を経て製品になって売れてゆく。そしてその売上代金が利益の分だけ一回り大きくなって会社に戻ってくる。そしてまた材料仕入れに出てゆく。このような循環で鍛えられた資金と、全く違う資金が入ってきた。それは循環することなくイキナリ銀行から会社に入ってきた資金だった。臭いが違った。ビジネスのプロセス(資本の再生産過程)で練られた資金だけがもつ人の手を経た臭いと違う。同じ色合いの資金同士は協力的だが違う色、臭いの資金は本丸で一緒に居てもしっくりしない。直ぐ銀行から来た資金は設備の購入に使われ、資金城から出て行った。

  色、においが異なる資金の同居は居心地も悪かった。城の兵士で例えると循環した資金は、よく訓練された兵士だが、銀行から来た資金は傭兵のようだった。経験を積み苦労を乗り越えた資金と経験不足の、言い方替えればボンボン資金だ。仲たがいが起こらなければ良いが、と思った。

仕事センム登場

 泰平社長の子供とは言っても似ても似つかないかただ。工員と話もしない。作業の工程を覚えることもしない。古い職人は教えようとしたがセンムが聞く耳を持たないから、そのうち現場仕事を誰も教えなくなった。仕方なく泰平社長は経理の仕事に就かせた。しかし計算もムチャクチャ。この頃は生産量も多くなっていたので数字も当然大きくなる。しかし月次の絞めができないから会社の状態が見えない。泰平社長は派遣会社に依頼して経理担当として地見行男さんに来てもらった。 

 センムは社内でする仕事がなくなった。社長はセンムを営業に出し、ルートが出来ているお得意先を回って注文を取ることを任せた。別の言い方をすれば新規を獲得する馬力は期待出来ないということだった。案の定、専務という名刺を持って商談に臨んだが商品知識のなさを見抜かれ受注はできなかった。 

 しかし給料だけはセンムらしく貰っていた。社内のだれも何も言わなかったが不満のタネになっていた。そのセンムが見栄子という女性と結婚した。キツイ性格が顏の相に出ている。眼と眉毛の間が険しい。そのうえ頬骨が突き出し、両あごが張出し、両肩が怒っている。三権面の凶相である。派手な結婚式だったが社内は白けたムードであった。泰平社長がそんな社内のムードに気かつかなかったのも不思議だった。

 センムは若手経営者の会に入ってから経理係りの地見さんに、しばしば交際費を要求するようになったばかりか、それ以外の臨時の支払いをも要求しだした。

 「地見さん、こんどクルマ買うので600万円ほど用意してくださいよ。若手経営者会の仲間に聞いたら仮払金という便利なものがあるらしい。オレの個人口座に600万円資金移動してくれよ。」

 妻の見栄子も仮払いをねだるようになってきた。使途不明の資金を100万円単位で引き出してゆく。自分の身を飾る化粧品や服を買うためである。

 営業成績は伸びないから月次の支払いをしたら本丸と固定丸の残高はゼロに近くなった。それでも、これまでの蓄積は金蔵出丸と張出出丸に加え奥曲輪にも資金が備蓄されていた。センムは格好をつけて高値でも材料を仕入れるので次月支払用の資金を貯める金蔵出丸の残高が減少を続け半年もしないうちに金蔵出丸の残高はゼロに近づいた。そこへ見栄子からの不規則な支払い要求があるため余裕資金の砦である張出出丸も残高が減少しだした。

  センムと見栄子の間にできた女の子をリッチエスカレーター学院小学校に入学させると言って入学金を見栄子が仮払金として支出して欲しいと要求してきた。

 地見は「若奥さん、これまでも仮払金としていろいろ出してきました。仮払金は字通り仮に支払うものですからどう使ったかを示す精算が必要です。その精算もできていません。そのうえお子様の入学金は家計からお出しになるのが普通と思いますが、、」と遠慮がちに切り出した。

 「家計から出せェ?!あんたいつからそんなにエラなったんや。つべこべ言わんとおカネ出したらええんや。さあ直ぐ出してんか、、早う。今日中に学院の会計課に持って行かないかんのや。ぐずぐずしてたらシバキ上げるでェ

  その翌日であった。「地見さんオレ今度フェラーリに乗り換えるので1600万円ほど仮払いで出してくれへんか。若手経営者会のGOLFコンペでゴルフ場に乗り付けるクルマはみんな最低でベンツで、マセラッテイかポルシェでマアマアや。この前買ったカンムリという国産車では軽う見られる。フェラーリくらいでないと仲間外れになる、、、直ぐカネ出してや、、」

これで張出出丸も残高が激減してゆく。 

次回予告

 資金の備蓄がなくなってゆくので地道は泰平社長と相談して銀行から運転資金を借入れた。設備資金の借入ではなく運転資金の借入は、家計で言えば給与だけでは足らないのでサラ金で借金しなくてはならない状態に似ている。それでも泰平社長は気にならない様子であった。
 やがて、センムは大酒とグルメが原因で糖尿病と肝硬変に罹り循環多臓器疾患から心不全になった。見栄子は携帯電話をブラジャーの右の位置に入れていた習慣が原因で乳がんになった。医療保険の備えもない。リッチエスカレーター学院では小学生でもイタリアのブランド物を身に付けている。質素な服装ではすさまじいイジメの標的になる。見栄子は治療費と娘のブランド物の購入のため湯水のように仮払金を求めて経理の地見に凄む。地見は精神的にオカシクなりそうだった。