Try for you

木村栄昌
(税理士・米国公認会計士)

米国版 孫子の特徴と分析

—MBA教科書 Sun Tzu and The Art of Business—を題材にして

税務会計 For You Partners
代表 木村栄昌
<2000,6,28>

概要

1, 著者紹介

  • Mark R.McNeillyはIBMの企画マンであるとともに陸軍史研究家で退役歩兵・砲兵士官である。

2, 概要

  • 著者は以下の6つのビジネス応用原則を自ら構築し、これらを縦糸にして、孫子の計篇第一から用間篇第十三までの重要点を横糸に位置づけ、経営実践上の展開を説く。
  • なお引用の英文孫子はSamuel B.Griffithの英訳を使用している。
  • 1996年 初刊

3, 注

  • 本稿での紹介に際しては、孫子原典に触れる部分は武岡淳彦先生著「新釈 孫子」(2000,6,15 PHP)の「読み下し文」を用い、難解部分は「通解」を引用させていただいた。当該部分は(Txxp)で示した。

6つの原則

  1. Win All Without Fighting
  2. Avoid Strength, Attack Weakness
  3. Deception and Foreknowledge
  4. Speed and Preparation
  5. Shape Your Opponents
  6. Character-Based Leadership

Introductionより Uses of The Art of War(原書の記述順)

  • 毛沢東>蒋介石  ゲリラ戦で有用
  • Most well known SAMURAI 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康もマスター
  • 1772年に仏訳されNapoleonも読了し影響受ける
  • ジンギスカンは孫子よりSpeed(第4原則)を習得し活用
  • Shape enemy(第五原則)はローマ帝国建設にも寄与
  • 第三原則(偽計Deception)は真珠湾攻撃に使用された
  • 第三原則(Use Intelligence)はキューバ危機で米国を救った
  • Viet Cong(べトコン)の戦略は第二原則(Avoid Strength, Attack Weakness)そのもの
  • ソ連軍のスターリングラード防衛戦 vs.ドイツ第6師団にもused
  • シュワルツコフの砂漠の嵐作戦ではDeception, Speed, Attacking the enemy's weaknessなどALL Part of Sun Tzu's philosophyが使用された

第一原則:戦わずして勝つ Win All Without Fighting

Capturing Your Market Without Destroying It
市場を破壊することなく、手に入れよ

計篇第一:

兵は国の大事。死生の地、存亡の道なり。

謀攻篇第三:

国を全う(敵国を傷つけずに屈服させる T137p)するを上となし、国を破るはこれに次ぐ、軍を全うするを上となし軍を破るはこれに次ぐ。

上兵は陰謀を撃つ、次は同盟関係を断つ、その次は野戦に勝つ、最低が城塞を攻める事である。

名将は城攻めの禍を知っているので、(中略)敵の城を必ず無傷のままで手にする方法で天下の争奪を狙う。軍隊も疲労せず完全な勝利が得られる。謀攻戦略の妙味である。(T136〜143p)

作戦篇第二:

頭のよい将軍は、適地の食料を奪って賄おうとする(T127p)

第一原則の実践

  • 欧米のビジネス観とアジアのそれとの相違
  • チェスと囲碁の違い。ビジネス思考では碁>チェス
  • 敵を生け捕り、旗を替え戦車をそのまま使う例を実践
  • ゴールは戦わずしてALL-under-HEAVEN-intact(極楽戦術−木村注、以下括弧は同様)でマーケットを支配すること
  • スイスに学ぶ繁栄とは、国もビジネスも小さくても永く維持・繁栄が第一(攻勢専守)
  • 売上より粗利益を重視、(更にはCash Flowも。粗利益、回収サイトを考慮しないで売上を上げよと指示するのはバカ社長の典型−木村注、以下この表記は省略)孫子でいう「怒」に通じる。武岡訳では「思慮を欠いた浅はかな用兵」とある。(T129p)
  • 敵情を熟知しなければ戦わずして勝つことはできない。自己も知らないと百戦危うからずには、とてもなれない。よって敵の経営陣の心情、人物、その業種の背景、諸事情、味方の弱点に通じているべきである。
    (見える化、が必須と思う)

第二原則:敵の強い点を避け、弱点を衝け Avoid Strength, Attack Weakness

Striking Where They Least Expect It
  • 敵の不意を衝け
  • 敵のValue chainの連結点 R&D / Mfg / Sales / Serviceを攻めよ
  • 敵の心理的弱点を攻めよ
  • 攻めるために準備せよ

謀攻篇第三:

将、その怒りに勝てずしてこれに蟻附(ぎふ)(蟻の群のように人海戦術で城壁に兵をとりつかせる、T143p)すれば、士卒の三分の一を殺しても而も城の抜けざるは、此れ攻の災いなり

虚実篇第六:

攻むれば必ず取る者は、その守らざる所を攻むればなり。守りて必ず固き者は、その攻めざる所を守ればなり。故に善く攻むる者には、敵、その守る所を知らず。善く守る者には、敵、その攻むる所を知らず。

第二原則の実践

  • 価格戦略:Kマート vs ウォルマート
    Kマートはウォルマートのテリトリーの安売りの場を直接攻撃、その結果自社の益率を下げ、行き詰まった。WalMartはそれを見極めてから大幅値下げで市場をGet。
  • 積水を一気に逆落としする例(集中効果:形篇第四):競争相手の生産工場が強力で配送部門は弱い場合、こちらの配送を強化して敵の顧客を取る。その結果、敵の生産工場の価値は劣化する。
  • 弱い点を攻める CNN, ESPN, MTVの例、自己の得意分野に特化し、nicheないし空間(emptiness)を攻めメジャーネットワークのシェアーを取る。
    CNN:TVニュース、ESPN:スポーツ専門  MTV:ロックンロール音楽
  • "GE"のCEOウエルチの戦略
    資本を中国、インド、メキシコに重点投資。これらの地域ではジェットエンジン、プラスチック 医療用機械装置の需要が多く、成功
    虚実篇第六:人なき地を行け(T203P)千里を行きて、疲れざる者は、人無き地を行けばなり。
    (予防税務)租税法令を熟知し守りを固めれば(弱点が無いようにする)、調査も問題なく終了。新聞に書かれることもなく評価が高くなる。

第三原則:偽計と予知を働かせよ Deception And Foreknowledge

Maximizing the Power of Market Information
  • 競争相手を知れ
  • 己自身を知れ
  • 情報技術(Information Technology)を使え
  • マーケットを知れ 欺くべし(兵は詭道なり:計篇第一)

用間篇第十三:

明君賢将の動きて人に勝ち、功を成すこと衆に出ずる所以の者は、先に知ればなり。先に知るには(祖先の霊を祭ってお告げを得たり、吉凶占いによってわかるものでもない。さらに日月星の位置によってもわかるものでもない)必ず人(間諜)に取りて敵の情を知る者なり。(T358〜9p)

第三原則の実践

  • 本当の敵を知るには、財務、従業員、商品製品、主要市場、原価構成・・・原価以外は有価証券報告書やAnnual / Quarterly reportで知ることが可能、その他商業、不動産の全部事項証明書とくに抵当権、仮登記担保に注意。
    やはり一番はface to face! 工場の窓ガラスに注意! 関西で聞いた話!
  • 先に知ることの重要さ(兆候を読むことの大切さ。T269P)
    「晴天の霹靂というのは、その兆候をキャッチできなかっただけだ。」(T73P)
  • 自己を知ってるか、百戦して危うくないか(日本人の特徴に注意)
    製品、工程、従業員の強弱の点の把握(内部情報と質問、よい顧問を持つ、イエスマンや、うらなり<青瓢箪のこと、覇気のない人物の俗称>はだめ)
  • コンピューター情報(Information Technology)が見えないものも見せてくれる
  • 兵は詭道なり、Weak Pointを作出することで相手の経営資源を浪費させる事ができるだけでなく、先方の経営陣が攻め口である弱点を教えてくれる。
  • M&Aの例 ある買収王、テンダーofferの一方で相手側は証券会社に別のofferを画策。ヨット旅行に出る一方で、相手に油断に乗じ高値で買い進めた。

第四原則:スピードと準備 Speed And Preparation

Moving Swiftly To Overcome Your Competitors
  • スピードは力の源泉
  • 速攻が出来る条件、無駄を省き顧客満足を高めよ
  • スピードは敵に驚きとショックを与える
  • 攻撃、防御のシナリオのもと組織で動け

九地篇第十一:

およそ戦いというものは迅速機敏を生命とする。すなわち先手を取り、敵の不意を衝いて、敵の考えていない道を通り、その備えていないところを攻めて勝つのである。
:初めは処女おとめのごとく。敵人、戸を開けば、後は脱兎の如くす。敵、ふせぐに及ばず。

軍争篇第七:

故に兵は詐を以って立ち、利を以って動き、分合を以って変をなす者なり。故に

疾如風 徐如林  侵掠如火 不動如山・・・四如
知りがたきこと陰の如く  動くこと雷震の如し・・・併せて六如

物資の挑発をするには兵力を分散し、土地を奪って」広げる時は地区を区分して、その利点を分担管理させ、兵力はなるべく分散しない。状況適応(T238p)

第四原則の実践

  1. Speed の四つの効果
    勢い、ショックと驚愕、弱点露呈、小が大に勝つ現象を生む。Speedがチャンスをもたらす。流水の速さが石をも動かすのは勢いゆえである。戦場に先に到着した方が余裕がある、遅れた方は不利な戦いを強いられる。
    1. 競争相手の半分の時間で生産できるSpeedがあれば、競争相手の半分の設備と人員で闘える。
    2. 動きと展開が遅い相手の弱点を衝くほど反撃に相手は手間取る。Take Overに有効
    3. 二つの試作品の内、一つは上手くいった、もう一つは困難。多くのmanagerは困難なほうに支援するため人員をシフトして失敗。悪い方は切捨てるべき。
  2. サウスウェスト航空の例:一斉に各都市に新規Flight路線を一気に10〜12の便数を飛ばして制圧
    まず勝ちて後戦う:膨大な準備の後にGO。
    計篇第一:算多きは勝ち、算少なきは勝たず。 客観的勝算の有無を詳細に検討すれば戦争の勝敗を事前に予測する事は可能である(T112P) 結局、まず勝ちて後、戦う原則(計篇第四)(T169P)に繋がる。

    (シミュレーションにより、Cash flow, Tax負担、配当まで読める)

第五原則:真の敵を見極めよ Shape Your Opponent

Employing Strategy To Master the Competition
  • エサを撒いて真の敵を見出せ
  • うまく逃げよ
  • 協同せよ(次項参考)
  • 敵に正体を見せるな

虚実篇第六:

善く戦うものは、人を致して、人に致されず。(T198P)
:敵が必ずやってこないではいられない所は先取りし敵が思いもよらないところも取っておくのがよい。(T202p)

勢篇第五:

正の戦法で不負の地で敵を拘束し、状況に応じた奇の戦法で打ち勝つのが常道である。(T183P)

第五原則の実践

  • 「善く戦うものは人を致して致されず」の意味。撤退戦でも攻めないと撤退できない。
    (上手く行かない会社のキムラ五原則とは?)
  • 正と奇の戦法の使い分けとはいうものの
    (軍争篇第七:「正正の旗をむかうこと勿れ。堂堂の陣を撃つこと勿れ」が鉄則。あまりに奇を用いない)
  • 敵に連携させるな、味方が敵になるかも
  • もし強力な連携先があれば攻撃は控えよ
  • 攻撃するなら、その攻撃相手の連携を断つことで、孤立させてからにしろ
  • 力のないものと連携してはならない
  • 味方の連携の継続と終結時期を考えておけ
    (役務提供型サービス業の契約は終結時期を明示)

第六原則:人格的リーダーシップ Character-Based Leadership

Providing Effective Leadership in Turbulent Times

リーダーの人格が試されるとき
言葉でなく、行動で示せ
物質的な報酬より心情で率いよ
明確な使命を与えよ
組織戦略を明確にせよ

地形篇第十:

将は己の名声を上げるため攻撃したり、罪にふれることを怖れて退くべき時に退かないなどの邪心がってはならない。ひたすら将兵の命を大切にして損耗を少なくし君主の政治的利益に貢献する軍事作戦を行なう心がけが必要である(T297P)

用間篇第十三:

爵禄百金をしみて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。人の将に非らざるなり(T356p)

第六原則の実践

  • 性格を強く、弱音を吐かない
  • 従業員の挑戦の心を共有する
  • 役割(missions)をオーバーラップしないで与える
  • 宇垣 纏司令官の模範とすべき行動(T124p)
  • ベトナム戦争でのシュワルツコフの嘆き(T124p)
  • 爵禄百金を惜しみ敵情を知ろうとしない愚
  • 不従順なものへの罰の与え方(行軍篇第九)
    まだ慣れていない新兵を処罰:反抗的になって使い物にならなくなる。
    軍隊に慣れている者が規則違反して処罰しなければ:役に立たなくなる(T282p)
    愛するだけで危険な任務を与えず、命令を厳しく実行させることをしなければ、将兵たちは堕落してその軍隊は駄々っ子のように使いものにならないものとなるであろう <地形篇第十> (T298p)

分析とまとめ

狩猟民族らしくSpeed重視

  • 疑問あり:このSpeedとは「勢い」ないし「素早さ」で、局地的戦術的意味と考える
  • <海上知明著「信玄の戦争」kkベストセラーズ2006,11、第四章,孫子の限界「時の概念の欠如」に詳しい>大戦略を達成するためには時間がかかっては落とし穴にはまり、大機を逸す

戦わずして勝つ方がCostが安上がりとの合理性。原書88pでも作戦篇の「拙速」を引用し戦争は早く終らないと疲弊するとコスト面から強調

  • 疑問あり:安上がりでも時間掛かれば高くつく。現代は時間を買うためCostをかける。Oppotunity Costの機会損失の方が高くつく。上記書にあるように信玄は織田信長というマキャベリスト・拙速(荒削りという意味で武岡書54pの六分の勝ちの意味ではない)の権化に敗れた。春秋戦国時代の生残り重視、国力疲弊を避ける思想(海上書223p)の限界か。

情報重視、偽計や餌まきは狩猟的な罠に通ず

ケース スタディ 6原則をどう使うか(その1)

事例

A製品で世界第3位の甲社に外国投資銀行から世界第2位の乙社の経営陣で且つ有力株主グループが内紛で、甲社に株式譲渡の話を持ちかけてきた。

社長であるあなたは何処に着目し、どのような対処をしますか? また孫子ならどうしたと思いますか?

Point:

  • 内紛の実相は、計略か、選択するSpeedの種類
  • Speedの種類とCost比較
  • 得られるものの金銭評価
  • 最悪の場合(訴訟)Cost、会社が危機に陥る程か
  • 内部情報(用間)のルートとCost

ケース スタディ その2

事例

貴社の顧客が200万円の売掛金を支払ってくれません。あなたは営業部長として6原則で、どうし対処しますか。

Point:

不払の原因、相手の状況、支払能力、風聞、選択すべきSpeedの種類

結語 The Basics of business and business Strategy unchanged

  • 技術が進み、新商品や新サービスが日々出てきても、ユニークで高品質で、客が他所で手に入らないものを提供すること。(人マネでは伸びない)
    Although new products and services emerge daily, the key to success involves providing unique and superior value for customers, giving them something they cannot get elsewhere.
  • 最大利潤と投下資本回収率は、最少の経営資源で最大の収益を梃子の原理で得られることで達成できる(高付加価値を狙え)。
    Maximum profits and return on investment are attained by leveraging the smallest amount of resources into the largest amount of revenues.
  • ビジネスリーダー達のよく似たミスは、計画を作っても達成に必要なコストが欠けていたり、その改良案がなぜ必要かの意味を詰めないまま実行しようとしたり、日々の現場で起きる危機管理が欠如していることである。(社長室に居ては見えない)
    Creating plans they lack the resources to complete, focusing on improving processes without questioning the need for the process themselves, and ignoring strategy to focus on the day-to-day crises of the business.

(原著152〜154p Summaryより、カッコは発表者補足)

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